総州書房雑録

読んだ本の感想、考えたことを書いて行きます。

徳、常に、術に勝る。

孟夏の太陽 (宮城谷 昌光 著)

を読んだ。

古代中国のとある国において、国家を主導した宰相の一族の

栄枯盛衰を描いた短編集である。

宮城谷先生の著作はどれもこれも、

己の人としての、在り方を問われるものだ。

 

ここのところ、題名にある言葉をよく考えている。

『徳(とく)常に、術(すべ)に勝る。』

徳とは、在り方。

術とは、やり方。

なんじゃないだろうか。

 

人の成長を樹にたとえるのであれば、

在り方は、根っこであり。

やり方は、実であったり、花であると思う。

 

実や花は、すぐ役に立つ、そして派手である。

しかし、実は食べればたちまち無くなり、花は枯れてゆく…。

一方、根っこは常に地中にあり、人目を引くことはない。

しかし、樹に実をつけさせるのも、花を咲かせるのも根あってのものであり、

風雨にあって、無事に樹を屹立させるのも根の為せる業に他ならない。

 

瞬間的に成果を出させるのは、やり方(方法)であることは間違いない。

だから、(何かここのところ上手くいってないなー…)という時は方法を振り返るといい。

 

しかし、長期的に持続する成果をもたらすのは、在り方(人間力)なんじゃないかと思う。

(ずっと頑張ってるのに、人に恵まれないなー…)と思う時は、在り方を点検するといい。

 

そして、悔しいことに在り方を育てるのには時間がめちゃくちゃにかかる。

最初はもちろんつまずきながらであるから、つい人は根を育てることをやめてしまう。

 

すぐに役に立つ方法を収集することで仮初の安心を得る。

自分が『どんな人間になりたいか』という目標を忘れてしまう。

 

その度に、自分は題名の言葉をつぶやき、自分自身を鼓舞する。

 

―徳は常に、術に勝る。―

 

時代の暴風に負けずに、立ち続ける大樹になる為に。

 

 

孟夏の太陽 (文春文庫) 文藝春秋 https://www.amazon.co.jp/dp/4167914301/ref=cm_sw_r_li_awdo_c_D15rEbX0SH6KW