峠(下)備忘編
スピードは金。
兵馬の精強無くして一般の正義無く、独立なく、自尊なし
人はその長ずるところによって身を過つもの。
長ずるところを用いられないと、鬱積する。
そうなると何とかしてその長ずるところを用いようとして現実を歪んだ解釈をしてしまう。
長じるところは一旦、脇に置いて冷ややかに見るべし。
(西洋が進歩したのは)
人と人が腹蔵なく語り合うという習慣を作れたがため。物事が速く進んだ。
一時点に限定すれば物事はにっちもさっちもいなかいように見えても
時が経過すれば世の中のことは徐々に変化して事態は全く変わってしまう。
どうにもならぬ時は、急がぬこと。
(それには)
知恵を働かせ、ときに駆けずり回って時を稼ぎ、時には亀のように息を殺し、踏まれても蹴られても怒らずに堪えて、無理な戦いでも受けて立って戦い抜く。
英雄がいなかれば紛糾した会議はまとまらない。
たとえ何人有識者がいてもまとまらない。
こちらに覚悟さえあれば、相手は出方に困るもの。
事実を伝える。意見は要らない。
客観的な材料だけで良い。
(倫理観が無くなった組織においては)
統率者が真っ先に陣頭を駆けて自身の理念のために死ぬもの。
その覚悟と気迫があらねば「群れ」はついてこない。
感情が昂ると思考力は低下するので、まずは冷静になるし、させる。
いかに威武在る者からも脅されても屈せず、いかに貧乏しても志を変えない。
人間は純粋な単純さを持たねば物事は成し難い。
議論は怒った方が負けである。怒ることは自己の敗勢を強引に覆そうと言う蛮行。
未来に対する最大の貢献の一つが「人を育てる」こと。
陽明学にとって、結果は重要ではなく、その行為自体が美しいかが重要。
(東北諸藩と西国諸藩比較)
階級の窮屈さ
外圧への感度
異常なる勇気を持つべし。犬死すべし。
徳義の無い軍は時代を担えない。
君子の第一義は護民官。
(交渉事の要諦)
人数で威圧しない
親しい人物が単身馳せ来たり腹を割って話す
示威的に出て感情を逆なでしない
武士は主君のために存在している。
人柄は茫漠としていて物事に窮屈な先入主を持たず、直観によって事態の本質を察知する。敵への優しさ。
人間、成功不成功の計算の果てに行き詰まれば、そこには美しくあるべしという矜持が残るだけ。
山を例にたとえてみよ、木こりは山を見て山の樹を切り倒すことのみを思う。
しかし金持ちが山を見ればその山をどう金にするかを思うであろう。
視座を高く持つことである。
知恵は臆病さから産まれる。
人はどう生きれば美しいか、が武士道。
どう生きれば、公益にかなうかが儒教。
この2つを持ったのが幕末人。
陽明学。
自分の生命を一個の道具にするべし、と生きる。
そしていかに世を救うかだけが人生目標である。