総州書房雑録

読んだ本の感想、考えたことを書いて行きます。

ど素人、和歌を読む その3

「ふふ…変わったお歌ですこと」
「そうか?どこが変だ?」

窓の外で、小鳥が朝の訪れをせわしげに告げている。

衣擦れの音は、閨の睦言の代弁者。
そこかしこに散った衣たちは、逢瀬の残り火。

衾にくるまった男女がそこにいた。

「なんだか…野暮ったいというか、ねぇ?」
男の髪を指で遊びつつ、女はけだるそうに歌を口の中で呟いていた。

「やれやれ、この歌に込められた私の想う心が分からんとは」

恋の歌だ。
しかも、なんとも未練のこもった。

「そう…山鳥…私達のことね」

男と女は、別々の人生を生きていた。
唯一同じ宿命があるとすれば、その人生を共に歩めぬこと。

「あなたにも、しだり尾があればいいのに…そしたら、私掴んで離さないわ」

「面白いことを言う人だ」

ふとかすめた宵闇の重さや寂しさを振り払うように、また男は女を抱き伏せた。

「やだ…もう朝よ…?」

「許してくれ、どうせ今夜は独りで寝るんだ…」

深すぎる寂寞の中で、男はきっと
つがいを失った雄鳥のように泣くのだろう。

 

 

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の 長々しき夜をひとりかも寝む

柿本人麻呂

 

歌意

山鳥の長く垂れ下がった尾羽みたいに、

長い長い夜を俺はひとりで寝るんだろうかなぁ」