峠(上巻)読書備忘
峠(上)(司馬遼太郎)
河井継之助は越後長岡藩の100石格の家に生まれた。
幼き頃よりいつか藩の宰相になるを誓い、その行動力を磨くために幕府の公認学派の朱子学ではなく、知行合一の陽明学を学び続けてきた。
彼は命の危険を冒しながら旅をした。
それは雪の峠を越えることとセットだった。
この越後の環境的制約。大きすぎる才気を持った男を縛り付ける冬の深い故郷。
しかし、河井は自らを故郷に縛り付けその立場から自らの能力を振るう時を待つ。
旅が彼の心胆を練り、心胆がまた彼の行動力に磨きをかけた。
江戸の古賀塾で学んだ彼は、吉原で女郎を買いつつも己の志を練るがためだけに読書を続ける。
江戸という都会に知らず憧れていたのかもしれない。
横浜でのロシア人水兵暗殺事件を機に、河井は横浜の外国人商人とも縁ができてゆく。
特にスイス人商人から聞いたスイスの話に河井は強く惹かれていく、一藩ことごとく武装すれば、スイスのような中立国になれはしまいか?と。
なじみの女郎も出来たころ、河井はまた旅の空にあった。
今度は終生の師となる岡山の山田方谷に師事するための旅である。
津で恩師と再会し、京都で貴族の女性と一夜の時を過ごす。
三十を過ぎた河井はまるで少年のような、どこか青い旅の毎日を過ごすが
京都はおりしも、安政の大獄の惨禍の中にあった。
岡山と長崎で学び、河井は江戸に戻る。
山田方谷から治世の術の勘所を吸収した河井であったが藩は彼を中々用いようとはしなかった。
遊学の費用も尽き、河井は長岡へ帰郷する。
藩主が京都所司代に任官するにあたって、その退任を進言したことで藩主の目に止まり河井は藩での出仕の道をスタートさせる。
牧野公の所司代退官の後はともに江戸に帰るが、今度は牧野公は老中に任官されてしまう。
老中退官をまたも進言した河井はその矢面に立つ形で役職を解かれ帰郷する。
妻と束の間の安閑とした日々を送る河井。
河井の再登場を待ちつつ上巻を終える。
【心に残った部分】意訳
人間で最も大事なのは出処進退。
進むと出るは人の協力がいるが、処ると退くは自己の決断にかかる。
士は自らを縛る、その拘束こそが士を漢にする。
動じぬと決めたら、動じぬ。
魂が命を所有している。魂が主人であり生命体としての生命は道具である。
今の環境に安住すると人はモノを考えなくなる、寝床は冷えていた方が良い。
青臭い人間でなければ何事も無しえない。
集団狂乱の中で、一人だけ醒めることの危険性とそれでも醒める覚悟。
流行は人間の病のひとつ。
しかし英雄は流行を利用して世に出る存在を言う。
大切なことは「日ごろから飽くなく」考え続けること。
自負心は持ってよし、しかし利己心や野心は捨てるが肝要なり。
感情的な苦労と物の値段は別。物価に心を配ること。
経済の流れを読んでこそものの用に立つ人である。
「越後屋の番頭が務まる武士こそ一国を切り盛りできる。」
士魂と商才は両輪である。
何事も目分量ができれば無用におびえなくなる。
怯えるものは武士にあらず。
置かれた立場で最善をつくすという覚悟。
世の中は食い気だけの若者と味のわかった大人の戦い。
勝敗を眼中に置かず、しかれども勝ちを制する。
知識に思想を交えてはじめて、未来が予見できる。
行動行動行動
不遇を憤るものは未熟である。
常住坐臥の緊張が、もしもの時の覚悟の醸成になる。
細心であれ、知恵ぶかくあれ。
この世は自分を表現する場である。
志を遂げるには、人に使われなくてはならない。
そのためには温良謙虚が処世の道。
人は原則を持たなけばならない。
そしてそれを実行する方法を模索すべし。
力があってはじめて自己の主張を世に問える。
実力を養うべし。
物事を行う場合、十人中十人が「良い」となったら断固として実行すべき。
失敗者は無数の夾雑物に意識と足をとられて行動できない。